外国人と共生する正念場を迎える日本。国のトップが明確な方針を示し、国民全体の意識改革も必要
日本国際交流センター執行理事・毛受敏浩「外国人と共生する正念場を迎える日本。国のトップが明確な方針を示し、国民全体の意識改革も必要です」
日本は移民とどう向き合うべきか─。「これからの日本は外国人と共生する社会になっていかなければ」と毛受氏。
ただ、現実の日本はそのレベルからまだ程遠い。出入国在留管理庁が2019年にでき、2022年の6月には政府は外国人との共生社会の実現に向けたロードマップを策定したものの、全体像は不明確。そして、特定技能を持った人の定住を認める制度もできたが、まだ不十分。日本の再生を図っていく上で、毛受氏は「日本がまだ経済力のあるうちに良い人材がしっかりと定着できるような制度づくりが不可欠」と訴える。
今こそ移民問題に正面から向き合うとき
─ 長年、日本に住む外国人の問題に取り組んでこられましたが、最近『人口亡国-移民で生まれ変わるニッポン』を出版されましたね。
毛受 ええ。いよいよ日本は人口激減時代に入りました。人口問題の解決なしに日本の将来はありえません。一方で、在留外国人が急増していますが、彼らは単に労働者であるだけではなく、日本人にない価値観、文化、ネットワークを持った人たちです。彼らの潜在力を活かすことが日本の未来の活力につながると考えて執筆しました。
これまでは、外国人労働者は一時的な働き手で、人手不足を補う景気の調整弁的な認識でした。しかし、今後はこうした考えを根本から変える必要があります。
現場で働く外国人労働者に担ってもらっているのは社会に不可欠なエッセンシャルワーカーを含むいわゆるブルーカラーの仕事です。
彼らはAIに代わりがきかない人たちです。介護、運輸の分野やバックヤードで働いている方々は、本当に日本社会にとって必要な人たちです。
日本はものづくりの国と言われていますが、そういうものづくりの熟練者は退職し、その後継者となる日本人の若者の数はどんどん減っています。外国からの技能実習生という形で一時的に労働力をカバーしていますが、基本的には母国に帰る人たちなので、技術をいくら教えても引き継げないのです。
─ その技能実習生の制度も発足の趣旨と全く違ってきていますよね。
毛受 そうですね。国際貢献が目的でしたが、実質的には一時的な労働者不足を埋めるために使われてきました。今は人口減少が深刻化し、労働力不足は恒常的に続いていく時代なので、外国人の人たちに日本に定着してもらい活躍してもらわないといけない。そういうフェーズに変わってきています。
しかし、日本企業や日本社会のメンタリティは、外国人労働者あるいは外国人に対して、日本に一時的に滞在する人で、そのうち母国へ帰る人だという認識が定着してしまっています。
人口激減の時代はその認識から脱却し、外国人たちの活躍を促し、彼らと一緒に社会を築いていくんだという国民全体の意識改革が必要です。
─ 毛受さんは30年来この移民問題に取り組んでこられましたよね。
毛受 実は政府は移民を〝外国人の生活者〟という言葉に置き換えて、実質的には移民政策をすでに始めています。2019年から現場労働者を受け入れる特定技能という在留資格ができ、同時に出入国在留管理庁が発足しました。それを機に在住外国人を支援する政策が各省庁に始まり、「ロードマップ」以外にも、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」として各省庁で217の施策が計画、進行中です。
さらに言うと、厚労省は、海外の労働者と日本の地方の企業とをマッチングさせ就職から定住までを支援する「地域外国人材受入れ・定着モデル事業」を実施しました。
これは政府が海外から労働者を招き入れ、人手不足の地域に定着を図る事業です。こうした事業がすでに開始されているということです。
─ そうした新しいことを始めるには語学習得も必要ですね。
毛受 はい。外国人の日本での生活、就労の基盤は日本語力です。2019年には日本語教育推進法が制定されました。私も参加している文化庁の文化審議会の日本語教育小委員会では、「地域における日本語教育の在り方について」を策定し、ドイツが移民に対して求める語学力に匹敵する高いレベルの日本語力を目標として設定しました。外国人がホワイトカラーになるレベルです。
さらに全ての市町村で外国人のための日本語教育体制の整備を求めています。外国人の定住化を前提に政策が着々と進んでいます。
─ 個々のそうした受け入れは始まっていますが、日本社会が移民の人とどう向き合うのかの基本的姿勢があまり国からは見られない気もしますが。
毛受 ええ。総理からこれから日本はもう外国人と共生する新しい社会になっていきます、という発表はされてないですよね。一部の国民の反発を恐れてのことだと思いますが、大多数の国民は外国人の存在はすでに必要不可欠と考えているのではないでしょうか。
地方の問題意識
─ そういう地方で働き手が不足している現場では対応が迫られていると。
毛受 ええ。国よりも地方の方が問題意識が強いんです。
例えば、高知県は「高知外国人材確保・活躍戦略」というものがあります。高知で働く外国人の満足度をさらに高め、賃金以外の面で魅力度を向上させる。さらにフィリピン、ベトナム、インド、ミャンマーと関係を強化し、それらの国から人材を受け入れ、安定的な人材の確保を目指すと。国の政策を待っているともう間に合わないので、県独自で海外での積極的な人材確保を行っていくという、決意の表れです。
山梨県では知事が「日本語教育推進県を目指します」という宣言をされました。私も関わった同県の「多文化共生社会実現構想」がきっかけです。外国人から「選ばれる県」にならないと、人口減少で地域の未来が危ういとの認識が共有されています。
地元の女子高校生が作ったビデオでは、外国人の人たちが、地元で頑張って働いて地域を支えてくれていることを私達はもっと知るべきだということを訴えていました。
一方、長野県では、歩みが遅い政府に対して提言を出しました。多文化共生のための法律を作る要望を県議会が決議しました。
このように、地方レベルでは外国人受け入れをもっと積極的にしていこうという動きが出ているんです。
日本の人口減を4割補う
─ 具体的に移民として入って来る人はどれくらいいますか。
毛受 去年日本の人口減少は75万人に対して、新しく入った外国人が30万人でした。コロナ前(2020年以前)では、日本人の減少50万人だったときに、外国人が1年間で20万人増加したのですね。
ということは、移民政策を取るか取らないかに関わらず、日本人の減少の約4割を補う形でこれまで外国人は増えてきているんです。それは、人口減少、人手不足が続く日本社会が外国人労働者を切実に必要としてるからそれだけ入ってくるわけです。
これから日本の人口は毎年80万、90万減っていきますので、そうすると毎年30万人程度増えていくでしょう。そうしないと日本社会が回らないからです。
もし受け入れしなければ、企業の倒産が起こるか、非合法で働く外国人が急増するでしょう。観光客で日本に来た人を違法でとどめて働かせるとか、そういう話になってしまい、そうなると逆に移民反対派の人が恐れているような悪い状況になってしまうという危険があるのです。
─ そうですね。でも最近ではアジアの人たちは、もう日本に行きたくないという話が時々出ますね。成長している韓国あるいは自国で働きたいと。日本に行ったところで給料も上がらないし、とこういう声も聞きます。
毛受 それもありますね。だから言ってみれば一流企業には良い人材が集まりますが、ブラック企業だと良い人材が来ないのが当たり前ですよね。
ベトナムで見れば、給料的にはまだ5倍から10倍ぐらいの差があるので、まだ来るっていう見方をする人もいれば、そろそろ来なくなると言っている人もいますね。
ただベトナムの経済成長は著しいので、10年後は来なくなる可能性が高いですね。韓国へ向かう場合は、試験をして選ばれた人たちが行くようになっていますが、日本の技能実習制度は人気がないので、地方で高校中退者などを含め、必ずしもレベルの高いと言えない人達も含めて数を確保しているという現状です。
さらに技能実習制度は最大5年で母国へ帰すのですが、終わった人は特定技能に移行できるようにしているんですね。一時的な労働者の想定なので学力を問わず技能実習生を受け入れていますが、その人たちが実際は定住していく。現在の制度は、リスクがある入れ方だと思います。
─ 難しい問題ですね。どこから解決の糸口を持っていけばいいですかね。
毛受 今後は定住を前提にした受け入れ体制を作ることですね。日本に働きに行けば、自分の夢が叶うとか、日本人と同じように働いて能力をつけたら、給料がだんだん上がっていくというように。家族で滞在できるのであれば、奥さんも働けて、自分の子供を教育できるような、日本人と同じようにこの国で生きていける仕組みを作ることですよね。
そうしないと、世界からは、日本は人口激減でも外国人を定住させない国、人を使い捨てにする国と見られてしまいます。
とはいえ、日本というのは安心安全の国なので、まだ魅力はあります。だから今のうちに良い人材がしっかりと定着できるようなシステム体制づくりが必要です。今みたいな中途半端な形では、本当の意味で優秀な人材から選ばれる国にはならないだろうと思います。
多文化共生社会を支える草の根支援
─ 古来日本人は共生思想があるといいますが、移民に関してはあまりないのでしょうか。
毛受 島国の日本は古代から、異文化や外国人を積極的に受け入れ、それをテコにイノベーションをおこし、文化、社会を発展させてきたのではないでしょうか。それこそが日本のアイデンティティだと思います。
現在では政府の政策が不十分な中で、草の根の多文化共生として定着しています。外国人がどんどん増えてくる中で、地方で外国人に日本語を教えるボランティアの方々が全国にたくさんいらっしゃって、そういう支援の輪は結構あります。
ですが、これだけ外国人の数が増えてくると草の根的支援では無理な話です。政府が一体になって進めていかないことには、これからどうにもならないと思います。
─ そういう表に出てないけど、一緒にやろうという熱い気持ちを持っている人がいる。
毛受 ええ。見て見ぬふりはできないという気持ちがある人たちですね。外国人がこんなに困っているのだったら自分が立ち上がって助けたい。そういう方々が全国どこでもいらっしゃいます。普通の人たちが支援したいという素朴な気持ちがあることが、日本の本当の強さだと思います。
そういう人たちにちゃんと光を当てて、あなたがやっていることはすごく重要なことで、日本の未来に繋がる仕事をやっているということを評価しないといけません。
それから、地方でリーダー的役割を果たしている外国人の存在をもっと一般の方々に知ってもらって、彼らの潜在力をいかに花開かせるか協力していけるといいですね。外国人には日本人にないバイタリティがあります。会社で働くだけの日本語力がないので、逆に「私は起業しました」という外国人もいるんですよね。
外国人が増えれば新たなビジネスチャンスも増える
毛受 この前テレビで、日本にいるアフリカの人はどこで散髪しているのかという番組を見たんです。それが、遠方から神奈川県相模原あたりの小さい町まで切りに行っているのだと。何故かというと、毛が縮れているアフリカ人は、カットに技術を要するみたいで、そこのお店にすごく上手な日本人女性美容師がいるそうです。
これは外国人が増えてくれば新たなビジネスチャンスも広がる一例ですね。またさまざまな既存のサービスも外国人を対象に入れることでサービス内容も刷新されていく。外国人の増加によってそうした時代がやってきます。これから日本の経済、社会は新たな段階を迎えます。
─ これはおもしろいですね。移民問題に前向きに取り組んでいけば、日本経済でもまた新しい道が開けそうですね。
以上、財界オンライン [2023年8月14日] より
引用元: https://www.zaikai.jp/articles/detail/3071/1/1/1
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